排泄介助は介護の中でも特に難しさを感じやすいケアです。羞恥心や自尊心への配慮、安全性、福祉用具の選択、皮膚トラブルの防止…多くのポイントを押さえる必要があります。
本記事では、排泄ケアの基礎から最新の技術まで、介護職員と在宅介護者の視点で実践的に解説。より快適なケアの実現に向けて、今すぐ使えるノウハウをお届けします。
排泄ケアの歴史と変遷

排泄ケアの起源と発展の背景
排泄ケアは、単なる排泄の補助ではなく、人の尊厳と生き方に直結する重要な介護行為です。
古くは家庭内で行われていた排泄の世話は、戦後の医療制度や高齢者福祉制度の整備とともに、専門的な「ケア」として発展してきました。
例えば、昭和40年代に普及し始めた「ポータブルトイレ」や「紙おむつ」は、家族の負担軽減と高齢者の自立支援の転機となりました。
現在の排泄介助は、技術面だけでなく、精神的ケアや権利意識の尊重も重視される「総合的なケア」に進化しています。
昔の排泄ケアと現代のケアの違い
現代の排泄ケアは、昔と比べて格段に「個別性」と「科学的根拠」が求められるようになっています。
以前は「漏れないこと」や「時間内に終えること」が重視されていましたが、現在は「羞恥心への配慮」や「利用者の自立支援」が最重要視されます。
たとえば、かつては夜間の一斉おむつ交換が当たり前でしたが、今はセンサー付きのおむつや排泄記録システムにより、本人の排泄リズムを尊重した対応が可能です。
介護技術の進歩だけでなく、利用者の人格や生活を尊重する姿勢の変化が、排泄ケアの質を大きく高めているのです。
高齢者像とケアの進化 ― 利用者の変化を捉える
排泄ケアの内容は、高齢者像の変化に伴い進化しています。
かつての高齢者は「要介護=寝たきり」が一般的なイメージでしたが、現在では「できることは自分で行う」アクティブな高齢者が増えています。
たとえば、移動可能な高齢者にはトイレ誘導を重視し、自立を支える環境整備や訓練的ケアを組み込むことが基本になりつつあります。
このような変化に対応するには、介護者自身も柔軟な視点を持ち、利用者の能力と意思を尊重した支援が求められるのです。
介護報酬と排泄支援加算 ― 制度から見た変化
排泄ケアの重要性は、介護保険制度における「排せつ支援加算」(※1)の創設からも明らかです。
制度面では、単なる処置ではなく、「自立に向けた取り組み」や「多職種連携による個別支援」が評価対象となりました。
たとえば、厚生労働省の定めた排泄支援加算では、「アセスメントの実施」「排泄支援計画の策定」「職員間のカンファレンス」などが算定要件となっています。
このように、排泄ケアは報酬面からも「生活支援」「尊厳の保持」といった観点での実践が求められているのです。
※1 参考資料 公益社団法人 全国老人保健施設協会 排泄支援加算の見直し 2021年5月
排泄ケアの基礎とその重要性

排泄ケアとは ― 介護現場における意義
排泄ケアは、介護の中でも利用者の尊厳に最も関わるケアです。
日常生活動作(ADL)の中でも、排泄は羞恥心や衛生面に強く関係し、心理的負担が大きくなりやすい領域です。
例えば、失禁やトイレ誘導の失敗が続くと、本人の自信喪失や引きこもりを引き起こすことがあります。
だからこそ排泄介助は、単なる作業ではなく「その人らしく生きる支援」としての意識が必要なのです。
排泄ケアと人権 ― プライバシーと尊厳の尊重
排泄ケアにおいて、最も重要なのは「プライバシー」と「尊厳の保持」です。
どれほど技術的に優れたケアであっても、本人が「恥ずかしい」「傷ついた」と感じれば、それは適切な介助とは言えません。
たとえば、複数の職員が不用意に排泄場面に立ち会う、無言で作業を進める、といった行為は尊厳を損ねる行為とされます。
常に「自分がされたいと思うケアかどうか」を基準に、丁寧な声かけとプライバシーの保護(※2)を徹底する姿勢が必要です。
※2 参考資料 ツクイスタッフ 介護現場はプライバシーだらけ!プライバシー保護とその重要性について解説


ADL・QOLと排泄の関係性
排泄ケアは、利用者のADL(日常生活動作)とQOL(生活の質)の両方に密接に関わっています。
排泄が自分でできるかどうかは、身体的な自立度だけでなく、心理的満足感や社会参加にも影響します。
たとえば、トイレが自立できる利用者は外出の機会も多く、活動範囲が広がる傾向があります。逆におむつ生活になると外出を控える人が増え、生活の質が低下しやすくなります。
だからこそ、排泄ケアは「できる能力を活かす支援」として、ADL・QOLの両立を目指す視点が求められるのです。
高齢者の排泄困難 ― 身体・精神面の影響
加齢や疾患により、排泄が困難になると、高齢者は身体的にも精神的にも多くの影響を受けます。
身体面では便秘や尿失禁、筋力低下による排泄姿勢の困難さが増え、精神面では羞恥心・無力感・抑うつ感が深まることもあります。
例えば、トイレに間に合わず失禁を繰り返すことで、自己肯定感が下がり、介護への拒否感や引きこもりにつながるケースも少なくありません。
排泄困難は生活機能だけでなく、本人の「生きる意欲」にも影響を及ぼす深刻な問題であることを理解しておく必要があります。(※3)
※3 参考資料 ユニ・チャーム ライフリー いきいき通信 シリーズ 排泄ケアを考える 2015年初夏号
排泄障害の理解と基本対応

排尿・排便障害の種類と特徴
排泄障害にはさまざまな種類があり、それぞれに適切な理解と対応が求められます。
高齢者によく見られる排尿障害には尿失禁、排尿困難、頻尿などがあり、排便障害には便秘や下痢があります。これらは単独で起こるだけでなく、複合的に現れることも少なくありません。
たとえば、夜間の頻尿により睡眠障害が起きたり、慢性的な便秘により食欲低下や腹痛が生じるケースもあります。
排泄に関する不調を早期に見つけ、正しい分類と観察を行うことが、適切なケアや医療介入につながる第一歩です。
尿失禁・過活動膀胱・前立腺肥大症・便秘・尿路感染症
高齢者の排泄障害の中でも特に多いのが、尿失禁や便秘、そして感染症です。
これらは加齢による筋力低下、神経障害、生活習慣、薬剤の副作用など様々な要因によって引き起こされます。
たとえば、過活動膀胱のある方は急にトイレに行きたくなり、間に合わず失禁することがありますし、前立腺肥大症では排尿困難や残尿感が問題になります。便秘によって排尿障害が誘発される例もあります。
それぞれの症状に対しては、医師の診断と連携しながら、食事・運動・排泄環境など多方面からのサポートが必要です。
引用元:国立長寿医療健康センター 一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル(改訂版) P.29
排泄障害による心理的影響と対応法
排泄の問題は、利用者の心の健康にも大きな影響を与えます。
「恥ずかしい」「迷惑をかけている」「自分が情けない」といった感情は、自己否定や介護拒否、引きこもりにつながることもあります。
たとえば、失禁が原因で外出を避けるようになったり、排泄介助を拒むようになる利用者も少なくありません。
そのような時こそ、「あなたのせいではない」「一緒に方法を考えましょう」といった共感的な言葉かけや、自尊心に配慮したケアが不可欠です。精神的な負担を軽くするために、周囲の理解と接し方が重要になります。
医療と介護が連携した支援体制の構築
排泄障害への対応には、医療と介護の連携が欠かせません。
症状の背後には疾患が隠れている可能性があるため、医師の診断・薬物療法・定期的な経過観察などと、介護職による日常的なモニタリングや環境調整がセットで行われるべきです。
たとえば、尿路感染症を繰り返す利用者に対して、医師からは抗菌薬の処方、介護職からは排泄記録の提出や清潔ケアの徹底が求められる場面があります。
多職種が情報を共有し、個別性に応じた対応を構築することで、利用者の安心と尊厳を守る排泄支援が実現します。
排泄介助の種類と手順

トイレ介助の基本 ― 歩行可能・車椅子・寝たきり別
排泄介助は、利用者の移動能力によって方法が大きく異なります。
歩行可能な方は誘導中心の支援が基本となり、車椅子利用者には移乗とトイレ動作のサポートが必要、寝たきりの方にはベッド上での介助が求められます。
たとえば、自力歩行が可能な方でも足元が不安定な場合は、転倒防止のために声かけと見守りを丁寧に行う必要があります。
利用者の身体機能に合わせた介助法を選び、過剰な支援を避けて「できることは自分で」という自立支援の視点を忘れないことが重要です。
ポータブルトイレ・尿器・差込便器の使い方
排泄用具は、適切な使い方と環境設定によって快適さと安全性が大きく変わります。
ポータブルトイレは移動が困難な方の自立支援に有効で、尿器や差込便器はベッド上での排泄を補助する際に用います。
たとえば、差込便器を使う際には腰の位置や角度、体位変換の方法を間違えると排泄がうまくいかず、羞恥心を強めてしまうこともあります。
使用前の声かけ、温度・音・臭いなどの環境調整も含めて、「不快にさせない配慮」が大切です。
おむつ交換 ― 適切な当て方と注意点
おむつ交換は、介護の中でも特に技術と配慮が求められるケアです。
サイズ・当て方・フィット感・吸収力の適合が不十分だと、漏れや肌トラブルの原因になります。(※3)
たとえば、テープの貼り方が平行だったり、オムツが体の中心に合っていないと、すき間から漏れてしまうことがよくあります。
おむつ交換は「手早く、丁寧に、衛生的に」が基本です。利用者の羞恥心にも十分に配慮し、必要に応じて目線や言葉かけも工夫しましょう。
※3 参考資料 ユニ・チャーム ライフリー 大人用おむつの使い方(YOUTUBE動画あり)
介助の際に注意したい感染対策と声かけ
排泄介助の場面では、感染予防と心理的ケアの両方が求められます。
特に排泄物は感染源となりうるため、使い捨て手袋の使用、処理後の手指消毒、トイレや用具の清掃など、徹底した衛生管理が不可欠です。
たとえば、便が付着したリネンをそのまま洗濯カゴに入れてしまうと、施設全体の感染リスクを高めてしまいます。
また、介助中の言葉かけ一つで利用者の気持ちは大きく変わります。「大丈夫ですよ」「ゆっくりでいいですよ」といった安心感のある声かけが、排泄の成功にもつながります。
在宅介護における排泄介助のポイント

排泄しやすい環境整備と生活リズムの工夫
在宅介護では、環境整備と生活リズムの工夫が排泄の成功に大きく関わります。
住宅環境は施設と違い段差や狭さが多いため、本人の動線や使いやすさを意識して環境を整える必要があります。
たとえば、夜間トイレに行きやすくするために、ベッドとトイレの間に足元灯を設置し、廊下の段差を解消するだけで、転倒リスクを大幅に軽減できます。
また、食事・起床・排泄のタイミングを一定にすることで、身体が自然な排泄のリズムを取り戻しやすくなります。環境と生活習慣をセットで見直すことが鍵です。
家庭でできる羞恥心への配慮と声かけ
排泄の場面では、羞恥心への配慮が本人の心理的安定に直結します。
在宅介護では家族が介助するため、親子間・夫婦間でも気まずさや申し訳なさを感じやすい場面です。
たとえば、無言で作業するのではなく、「ちょっと手伝わせてね」「あなたが楽になるようにしたいんだよ」といった声かけをすることで、相手の尊厳を守る雰囲気が生まれます。
羞恥心は“慣れ”ではなく、“配慮”で軽減されるものです。感情面にも寄り添う介護を意識しましょう。
ベッド上の排泄支援 ― 安全と清潔を両立する方法
ベッド上での排泄介助は、身体介護の中でも特に難易度が高く、衛生と安全の両立が求められます。
排泄後の処理が不十分だと、肌トラブルや感染症につながりやすく、姿勢が不安定だと転倒や腰痛のリスクも増します。
たとえば、差込便器を使う場合は、利用者の腰の下に適切に挿入し、終わった後は陰部を優しく清拭し、肌の状態を確認する習慣をつけることが重要です。
ベッドの高さやサイドレールの位置も調整し、介護者の腰への負担も軽減しながら、清潔かつ安全に介助する方法を選びましょう。
ケアマネジャーや訪問看護との連携のすすめ
在宅での排泄ケアは、家族だけで抱え込まず、専門職との連携が不可欠です。
排泄の失敗が続いたり、肌荒れや臭いなどが深刻化してくると、精神的にも限界を感じやすくなります。
たとえば、ケアマネジャーに相談することで、デイサービスの活用や排泄センサーの導入、訪問看護師による皮膚ケア指導といった支援策が提案されることがあります。
一人で悩まず、「困ったらまず相談」という意識で、チームケアを活用することで負担を軽減し、質の高いケアにつなげられます。

排泄ケアに役立つ介護用品と選び方

おむつ・パッド・おしりふきの選定ポイント
排泄ケアにおいて、適切な用具の選定は快適さと清潔さを左右する大きな要素です。
サイズや吸収量が合っていないおむつは漏れやムレの原因となり、肌トラブルや精神的な不快感を引き起こします。
たとえば、尿量の多い夜間用には吸収体の多いテープ式を使い、日中の活動時にはパンツタイプを選ぶなど、場面によって使い分けると安心です。おしりふきもアルコールの有無や厚みを確認して選びましょう。
利用者の状態と使用シーンに合わせて、複数の選択肢から最適な組み合わせを見つけることが重要です。
ポータブルトイレ・尿器の比較と活用法
移動困難な高齢者の自立支援には、ポータブルトイレや尿器の活用が大変有効です。
どちらも「トイレに行く」行為をサポートしますが、使用者の身体状況や設置場所によって適切な選択が異なります。
たとえば、寝室に設置するポータブルトイレは夜間の転倒防止に役立ち、尿器はベッド上での簡便な排尿に適しています。特に男性の使用には向いています。
用具の材質や形状、掃除のしやすさもチェックポイントです。利用者の「やってみたい」を叶える手段として、選定と説明が大切です。
ICT機器の選び方と導入の実際 ― 現場での課題をどう解決するか
ICT機器の導入は、排泄ケアの質向上だけでなく、介護現場の課題解決にもつながります。重要なのは「どの製品を導入するか」よりも、「現場の悩みにどう合うか」という視点で選定・運用することです。
たとえば、夜間のオムツ交換による利用者の睡眠妨害に悩んでいた施設では、排尿センサー付きおむつを導入し、「排泄があったタイミングだけ対応する」仕組みに変更。これにより、睡眠の質と職員の負担軽減の両方を実現できます。
また、記録作業に追われる介護現場では、排泄状況を自動で記録するシステムを導入したことで、手書き記録が不要となり、対人ケアに集中できる環境が整います。
ICTはあくまで“手段”であり、“目的”は快適で安全な排泄ケアの実現です。導入前には、課題整理と試験導入(トライアル)の実施、職員への研修をセットで行うことが成功の鍵となります。
実際の使用で注意すべき点と管理のコツ
介護用品は使い方を誤ると効果が半減し、逆に不快感や事故を招く恐れがあります。
とくに、おむつやパッドの適合性、トイレの位置、消耗品のストック管理など、細かな配慮が求められます。
たとえば、おむつのテープが肌に当たって擦れていたり、ポータブルトイレの汚れを放置してしまうと、皮膚疾患や感染の原因になります。
日々の点検と利用者からの声のフィードバックを活かして、「ただ使う」ではなく「最適な状態で使う」ことを意識しましょう。
肌トラブルと感染症予防のためのケア

オムツ使用による皮膚トラブルの原因と対策
オムツの長時間使用は、皮膚トラブルの大きな原因になります。
排泄物に含まれるアンモニアや水分が皮膚に触れ続けることで、炎症やかぶれが起こりやすくなります。
たとえば、吸収不良によるオムツの漏れ、湿ったままのパッド交換の遅れ、誤ったサイズのオムツ使用などが、皮膚炎や褥瘡の直接原因となります。
対策としては、「こまめな交換」「皮膚状態の観察」「バリアクリームの活用」などの予防的アプローチが有効です。オムツは肌を守るための道具であり、適切な使い方を徹底することが重要です。
清拭と陰部洗浄 ― 感染予防の基本動作
清潔な排泄ケアは、感染症予防の第一歩です。
特に陰部の洗浄や排便後の拭き取りが不十分な場合、大腸菌などの細菌が尿道口や皮膚から侵入するリスクが高まります。
たとえば、前から後ろへの拭き取りや、温水での優しい洗浄を意識するだけで、尿路感染症や肌荒れの発生率は大きく低下します。
使い捨ての清拭タオルや洗浄ボトルなども活用し、「早く済ませる」ではなく「正しく行う」ことを習慣にすることが大切です。
尿路感染症予防としての排泄ケアの実践
尿路感染症は高齢者の救急搬送理由の中でも非常に多い疾患です。
特に寝たきりやおむつ使用者では、排尿のコントロールが難しく、感染リスクが常に高い状態にあります。
たとえば、長時間のおむつ放置、陰部の清拭不足、水分制限などが原因で、細菌が膀胱内で繁殖し、発熱や意識障害を引き起こすケースもあります。
こまめな水分補給と排尿促進、適切な用具選定、丁寧な清拭が、感染症を防ぐ基本となります。日常の小さな配慮が大きな事故を防ぎます。
排泄記録を活用したトラブル予防の工夫
排泄記録の活用は、肌トラブルや感染症の予防に非常に役立ちます。
記録をつけることで、「排泄のタイミング」「排便・排尿の状態」「おむつの交換状況」などが可視化され、トラブルの兆候を早期に把握できます。
たとえば、便の回数が急に減った、夜間の失禁が増えたなどの変化にすぐ気付くことで、便秘や尿路感染の初期対応が可能になります。
ICT記録アプリや紙ベースでも良いので、毎日の排泄を「見える化」する習慣を職員全体で持つことが、質の高いケアにつながります。
現場で排泄介助に悩む職員のために

トイレ誘導・頻尿・長時間介助への対応法
排泄介助で職員が最も悩む場面のひとつが「トイレ誘導の難しさ」です。
特に頻尿の方や排泄に時間がかかる方では、他のケアとの兼ね合いが難しく、対応が後手になりがちです。
たとえば、「声かけしても断られる」「入った直後にまた行きたくなる」といったケースは頻繁に見られます。
対応策としては、排泄リズムを記録して先回りした誘導を行う、1回の誘導を焦らず丁寧に行うなどが効果的です。時間に追われない支援体制の整備が求められます。
精神的な負担とその軽減策
排泄介助は心理的にも大きな負担を伴います。
臭い、失敗、利用者の拒否反応など、精神的ストレスが蓄積しやすい業務であり、離職理由の上位にも挙げられます。
たとえば、何度説明しても拒否される、臭いに耐えられないなどの状況が続くと、モチベーションの低下や自己否定感を引き起こすこともあります。
軽減策としては、職場内で「悩みを共有できる仕組み」を作ることや、「対応が難しいケースは複数名で対応する」などの工夫が効果的です。孤独にしない職場作りが大切です。
スタッフ間での情報共有とルール作り
チームケアで最も重要なのは、情報共有と統一されたケア方針です。
排泄に関するケア方法やタイミングがスタッフによって異なると、利用者に混乱や不快感を与えやすくなります。
たとえば、「夜間はおむつ」「昼間は誘導」などのルールが曖昧だと、ケアの質にばらつきが生まれます。
共通のマニュアルや記録の確認、定例ミーティングなどを通じて、スタッフ全員が同じ情報・方針で動ける体制を整えることが、ケアの質を守るカギになります。
外部支援・研修・チームケアの活用
現場の課題は、施設内だけで解決しようとせず、外部資源を積極的に活用することが重要です。
排泄介助の専門研修や外部講師による技術指導、多職種連携の強化によって、現場のスキルと意識を底上げすることができます。
たとえば、「排泄ケアに関する医師の勉強会」や「リハビリ職との排泄自立支援プロジェクト」など、すでに多くの施設で実績があります。
「うちだけでなんとかしよう」と抱え込まず、外部の知見や支援制度を取り入れる姿勢が、結果的に利用者と職員の双方を守ります。
排泄支援の今後と最新トレンド

自立支援の考え方 ― ケアから生活支援へ
排泄ケアは「やってあげる介護」から「できる力を引き出す支援」へと進化しています。
従来は“失禁を防ぐためにおむつを使う”という考えが主流でしたが、今では“トイレで排泄できるよう支える”ことが重要視されています。
たとえば、ポータブルトイレの導入、リハビリによる起立訓練、定時誘導などの実践により、再びトイレで排泄できるようになった高齢者も多くいます。
介護の目的は、できることを奪うことではなく、可能性を引き出すこと。排泄ケアにおいても、自立支援の視点が基本になります。
チームで支える排泄ケア ― 医療・介護の連携
質の高い排泄支援は、医療と介護の密な連携によってこそ実現します。
排泄障害には疾患や薬剤が関与することも多く、介護職だけでは対応しきれないケースもあります。
たとえば、前立腺肥大による排尿困難や、糖尿病による多尿などは医師の診断が不可欠であり、リハ職や看護師の助言も有効です。
チームとして支える排泄ケアには、情報共有・記録の一元化・連携体制の整備が欠かせません。職種の垣根を超えた連携が、利用者の安心につながります。
「片付け」から「快適な体験」へのパラダイムシフト
これからの排泄ケアは「後始末」から「快適な体験」へと価値転換が進みます。
排泄を「不快なもの」「人に見せたくないもの」と捉えるのではなく、「自然な営み」として尊重する視点が必要です。
たとえば、清潔感のある個室トイレ、香り対策、温水洗浄付きの設備などを導入することで、利用者の満足度や精神的安定が大きく向上します。
「出すことは恥ずかしいことではない」「気持ちよく排泄できる環境を整える」――これが、これからの排泄支援の基本姿勢になります。
新商品・ICT活用による未来の排泄ケア
排泄ケアの現場では、最新技術の導入によって“介護の質”と“職員の負担軽減”の両立が進んでいます。
センサー付きおむつ、排泄予測AI、排泄記録アプリなど、ICT技術がすでに多くの施設で活用されています。
たとえば、排泄の前兆を知らせるセンサーを使うことで、おむつの無駄な交換を減らし、利用者の快適さも大きく向上したという報告もあります。
これからの時代、テクノロジーと人間的なケアが融合した“スマート排泄支援”が当たり前になるといえるでしょう。

利用者の尊厳を守る排泄介助とは

自分がされたいと思えるケアを目指す
排泄介助は、介護者が「自分がされたいと思えるケア」を基準に行うことが大切です。
どれほど効率的でも、利用者の心を傷つけるケアは“支援”とは言えません。
たとえば、「早くして」「なんでまた漏らしたの」などの言葉は、無意識でも相手の自尊心を著しく損ないます。
常に「この対応を自分がされたらどう感じるか?」を考えながら、やさしさと丁寧さを忘れない姿勢が信頼につながります。
利用者の生活の質を高めるケアのあり方
排泄ケアは、単に「出す」ためのものではなく、「生活の質(QOL)を高める」ための支援です。
失禁を恐れて外出を避ける、羞恥心から他者と関わらなくなる――そうした日常の制限は、排泄ケア次第で解消できます。
たとえば、定時誘導やトイレリハビリを取り入れたことで、活動範囲が広がり、生活に意欲を取り戻した事例もあります。
排泄支援とは、尊厳ある暮らしを取り戻すための“希望”です。利用者の人生を肯定する視点で向き合いましょう。
介護職・家族・多職種の連携で「快適な排泄支援」へ
良い排泄支援は、一人の力では実現できません。
介護職、家族、医療職、リハビリ職など、多職種が役割を分担し、利用者の生活全体を見据えて支えることが重要です。
たとえば、家族が「夜中はおむつでいい」と思っていても、ケアマネジャーや看護師が関わることで「ポータブルトイレを活用してみよう」と改善されるケースもあります。
「快適な排泄支援」は、共通の目標を持ち、それぞれが協力し合うチームアプローチから生まれます。
【まとめ】誰もが気持ちよく排泄できる社会へ

排泄介助は、「生きることの根本」を支える重要なケアです。
本記事では、排泄ケアの歴史、基礎、技術、心理面への配慮、用具の活用、感染予防、職員の悩みへの対応、そして未来の技術活用までを体系的に解説しました。最も大切なのは、排泄を“処理する作業”と捉えず、「人の尊厳を守る支援」として行う姿勢です。
利用者が「恥ずかしい」と感じずに排泄でき、介護者が「自分がされたい」と思えるケアを目指す。その積み重ねが、信頼関係を育み、ADL・QOLの向上につながります。現場・家庭・社会全体で「快適な排泄」を支える文化を育てていきましょう。
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