1. はじめに

先日、当施設で不適切なケアについて考えさせられる案件が発生しました。
この出来事を受け、施設全体で虐待防止について改めて考える必要性を強く感じました。
今回、高齢者虐待防止法や法人の規定を見直し、虐待防止の取り組みを再確認したため、その内容をまとめ、皆さんと共有することで、再び同じ問題が起こらないようにするため自身の意識を高めたいと考えています。
2. 法律で定められた虐待防止措置

高齢者虐待防止法は、高齢者を虐待から守るために制定された法律であり、介護施設やその職員に対して、虐待防止に向けた具体的な義務を課しています。
ここでは、法律の主要なポイントをわかりやすく解説し、特に虐待の定義について詳述します。
虐待の定義
高齢者虐待防止法における虐待は、大きく以下の5つのカテゴリーに分類されます。
身体的虐待
殴る、蹴る、拘束するなど、身体に対する直接的な暴力行為を指します。具体例としては、入居者を無理にベッドに縛り付ける、暴言を伴う暴力行為などが含まれます。
心理的虐待
言葉や態度で高齢者の精神を傷つける行為です。例として、侮辱的な言葉をかけたり、無視したりすることが挙げられます。心理的虐待は、見えにくいため発見が遅れることが多いですが、その影響は深刻です。
性的虐待
性的な嫌がらせや暴行を指します。例えば、入居者のプライバシーを無視した行為や、不適切な接触行為がこれに該当します。
経済的虐待
高齢者の財産を不正に使用したり、本人の意思に反して金銭を取り上げたりする行為です。高齢者の預貯金を無断で引き出すことや、不必要な契約を強制することが含まれます。
ネグレクト(介護放棄)
必要な介護や医療を故意に提供しないことを指します。例えば、食事を与えない、清潔に保たない、必要な医療行為を行わないなどの行為が該当します。
施設の責務
高齢者虐待防止法は、これらの虐待行為を防ぐために、介護施設に以下のような責務を課しています。
3. 虐待の定義と不適切なケア

虐待の芽を事前に摘むためには、職員一人ひとりが虐待の定義とその兆候を理解しておくことが重要です。また、不適切なケアも虐待に繋がるリスクがあるため、その違いについても明確にしましょう。
虐待の兆候
虐待は、明確な暴力行為だけでなく、微妙な兆候として現れることが多いため、見逃さないための注意が必要です。以下は、虐待の可能性がある兆候の例です。
身体的兆候: あざや切り傷、やけどの痕など、説明のつかない怪我が繰り返し発生する。
心理的兆候: 急に無口になったり、怯えるような態度を見せたりすることが増える。
経済的兆候: 不明瞭な支出や、本人が利用できない状態であるにもかかわらず、高額の支払いが発生する。
不適切なケア
不適切なケアは虐待と混同されがちですが、意図的でない行為でも、結果的に入居者の権利を侵害する可能性があります。
事例
必要以上に身体を拘束する
一方的な指示や命令口調で接する
入居者の意思を尊重せず、決定を押し付ける
これらは、職員の教育や意識改革によって改善できるケースが多いです。
4. 認知症の理解とケアの重要性

認知症の高齢者に対する適切な理解とケアは、虐待防止に直結します。ここでは、認知症の基本的な症状と、そのケア方法について詳しく解説します。
認知症の基本的な症状
認知症は、記憶障害、判断力の低下、コミュニケーション障害などを特徴とする進行性の疾患です。これらの症状に対する理解が不足していると、職員は高齢者の行動に対して苛立ちを感じ、不適切な対応を取る可能性があります。
ケアのポイント
5. 職員指導と教育の役割

虐待防止には、職員への適切な指導と教育が欠かせません。継続的なトレーニングやケーススタディの実施が、虐待リスクを減少させます。
継続的な研修の重要性
研修は単発で終わらせるのではなく、継続的に実施することで職員の意識とスキルを維持し、向上させることができます。具体的な研修内容としては、以下が挙げられます。
6. 職場環境と働きやすい職場づくり

職員が働きやすい職場環境を整えることは、虐待防止にもつながります。良好な職場環境は、職員のストレスを軽減し、ケアの質を向上させます。
労働環境の整備
7. 高齢者虐待件数と施設従事者の虐待件数推移

統計データを基に、近年の高齢者虐待件数と施設従事者による虐待件数の推移を分析し、現状を把握することは、虐待防止策の効果を評価するために欠かせません。
統計データの活用
引用元:厚生労働省 老健局 高齢者虐待の実態把握のための調査研究事業報告書 令和6年3月
8. 法人・施設の役割と規定
法人や施設が果たすべき役割は、明確な規定を設け、それを徹底的に実行することです。ここでは、当施設が採用している虐待防止の規定と、その実行体制について説明します。
虐待防止対応規程
当施設では、法人として以下のような虐待防止対応規程を設けています。
虐待防止の対応体制
規定による虐待防止の責任主体を明確にするため、責任者や職務を明確に定めています。
迅速な対応と報告体制
施設内で虐待が疑われる事案が発生した場合、速やかに上級職員に報告し、事実確認をするとともに、必要に応じて第三者機関や市町村へ通報する体制を整えています。また、職員には通報義務を徹底して教育しています。
対応策及び虐待防止改善計画
虐待の事実を確認した場合には、その対応策及び虐待防止計画を策定し、利用者、家族、関係者に対し速やかに虐待の経緯、虐待防止改善計画ついて説明します。
継続的な教育と研修
法人として、虐待防止に関する定期的な研修を義務付け、研修は虐待防止啓発研修に限らず、高齢者福祉を含めた人格、資質向上を目的としています。
受付から事実確認、市町への調査協力
虐待が疑われる場合の対応フローとして、施設ではまず内部での事実確認を行い、その後、市町村への調査協力を行います。調査においては、関係者全員が協力し、適切な対応を行うことが求められます。
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