在宅介護の負担と解決策を徹底解説|身体・心理・経済の負担を軽減するためにできること

 在宅介護は、多くの家族にとって大きな挑戦です。介護者は日々、身体的・心理的・経済的な負担と向き合い、時には孤立感に苦しむこともあります。

 しかし、適切なサポートやケアサービスを利用することで、負担を軽減する方法はたくさんあります。本記事では、介護に伴う負担を整理し、具体的な解決策を提案します。専門用語もわかりやすく解説し、初めて介護に関わる方でも理解できる内容を目指します。

目次

1. はじめに

 在宅介護は、家族が要介護者の日常的なケアを担う大きな役割を果たします。家族が提供するケアは、愛情が基盤となるものの、長期的にわたる介護は、介護者に多くの負担を課し、結果として身体的、心理的、経済的に深刻な影響を与える可能性があります。

 特に、要介護者の状態が悪化したり、介護が長期間にわたると、介護者は自身の生活に支障をきたすことがあります。日本における高齢化社会の進展とともに、在宅介護に従事する家族の数は増加傾向にあり、その負担軽減が重要な課題となっています。

 本記事では、在宅介護がなぜ大変なのかを具体的に解説し、科学的データを交えながら、介護者がどのように負担を軽減することができるのか、在宅介護に関する専門的な情報を提供します。

2. 在宅介護を大変に感じる理由

 在宅介護は、単に身体的なケアを行うだけでなく、介護者の生活全般にわたる広範な負担が関わります。以下に、介護者が大変に感じる主な理由を解説します。

身体的な負担

 在宅介護で最も顕著な負担は、身体的な疲労です。特に、排せつの介助や入浴、移乗(ベッドや車いすへの移動)、食事や服薬の管理、通院のサポートなど、日常的に行うケアが介護者に大きな肉体的ストレスをもたらします。

引用元:medilead LABO 見えづらい介護者の負担の実態とは?疲れや負担を軽減する方法も解説

 medilead LABOの調査によれば、介護者の約24.5%が非常に大きな負担、かなりの負担になっていると感じており、特に高齢の介護者にとっては深刻な問題です。

具体例: 特に夜間の介護が求められる場合、介護者は十分な休息を取れず、慢性的な睡眠不足に陥ることが多いです。例えば、認知症を持つ要介護者が夜中に起き出して徘徊する場合、介護者は対応せざるを得ず、睡眠が妨げられます。このような状況が続くと、介護者自身が体調を崩しやすくなり、介護を続けることが困難になります。

心理的な負担

 介護者にとって、身体的な負担に加えて、心理的な負担も大きな問題です。長期間にわたる介護は、孤立感や責任感からくる心理的ストレスを引き起こします。家族や友人と自由に過ごす時間が制約されることが多く、介護者は次第に「自分だけが全てを背負っている」という感覚に陥ることがあります。

具体例: 特に、認知症の進行した要介護者とのコミュニケーションがうまく取れなくなる場合、介護者は無力感や孤独感に苛まれます。例えば、要介護者が介護者の声かけに反応しなくなる場面が多くなると、「何をしても効果がないのではないか」と感じ、精神的な疲労が蓄積されます。ある学術論文によると、介護者の約38.6%が「心理的ストレス」を訴えており、うつ症状のリスクが高いことが明らかにされています。【1】介護期間が長期化するほどその割合が増加しています。

経済的な負担

 在宅介護では、直接的な介護費用に加え、収入の減少や働けない時間が発生するため、経済的な負担も大きな課題となります。介護保険が一部をカバーするものの、介護用品の購入や介護施設の一時利用、医療費など、多くの費用が発生します。特に、介護離職を余儀なくされる場合、家計全体に大きな影響を与えます。

具体例: 例えば、介護用ベッドやリフトなどの介護機器の購入、さらには訪問看護やデイサービスの利用には多額の費用がかかります。これらの費用は年間数十万円にも及ぶことがあり、家計に大きな負担をかけることになります。また、介護者がフルタイムで働けなくなる場合、家族の収入が減少し、経済的なプレッシャーがさらに増加します。

引用元:SOMPOホールディングス株式会社 「介護費用に関する調査」結果 2020年9月3日
引用元:SOMPOホールディングス株式会社 「介護費用に関する調査」結果 2020年9月3日

科学的データ: SOMPOホールディングス株式会社の調査によると、在宅介護における初期費用の平均は約64万円に上ることが報告されています。また、在宅介護にあたり月々にかかった費用が1万円以上〜5万円未満と回答した方が33.1%に上り、5万〜10万円未満との回答が21.3%というアンケート結果になっています。
 費用の内訳は、オムツなどの消耗品、医療費、デイサービス等の在宅介護サービス費などがあります。

仕事や家事との両立

 在宅介護を行う多くの人は、仕事や家事、育児との両立に苦しんでいます。特にフルタイムで働きながら介護を続ける場合、時間的にも肉体的にも余裕がなくなり、介護者が心身ともに疲弊することが少なくありません。

 仕事を続けながら介護を行うことは、長期的に見ると非常に大きな負担となります。

具体例: 例えば、朝から夕方まで働き、その後帰宅してから介護を行うという生活は、長期的には介護者に深刻な疲労をもたらします。さらに、仕事中に要介護者の緊急対応が必要になる場合、仕事を途中で抜け出さなければならず、職場でもストレスが増大します。このような状況が続くと、介護者は「自分がどちらも十分にこなせていない」という感覚に陥り、心理的なプレッシャーが強まります。

引用元:厚生労働省 労働政策審議会 雇用環境・均等分科会(第65回)仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集
    令和5年12月4日

科学的データ: 厚労省のデータによると、令和4年度調査で家族の介護・看護を理由とする離職者は10.6万人、家族の介護をしならが就業する者は364.6万人となっています。

3. 介護負担が継続する場合の4つの懸念

 介護が長期化すると、介護者には多くのリスクや懸念が生じます。以下に、特に注意が必要な4つの懸念事項を説明します。

健康への影響

 介護が長期化すると、介護者自身の健康に悪影響を及ぼすことがよくあります。特に、身体的な疲労や心理的なストレスが慢性的になると、介護者は自身の健康を犠牲にしてまで介護を続けることになります。

具体例: 例えば、介護者が腰痛や関節痛を抱える場合、さらに介護作業を続けることで症状が悪化し、自身が入院や治療を必要とする状態に陥ることがあります。実際、介護者の中には、介護が原因で自身も医療機関を訪れる回数が増えたという報告が数多くあります。

 介護者の健康状態悪化については、特に腰痛や関節痛、睡眠障害がその主な症状とされています。介護者の健康が悪化すると、介護の質が低下し、最終的には要介護者にも悪影響を及ぼす可能性があります。

経済的な制約

 介護が長期化することで、家計に与える影響はますます深刻になります。介護にかかる費用は月々の生活費に加え、年単位で大きな負担を強いられることがあります。

具体例: 介護が長期化することで、医療費や介護用品の購入、施設の利用料金が増加し、家計にかかる経済的な負担が大きくなります。特に、要介護者が重度の介護を必要とする場合、訪問介護や施設入所の利用頻度が増えるため、家計への影響は計り知れません。

社会的な活動の制限

 介護者は、友人との交流や趣味、地域活動に参加する時間が制限されることが多く、社会的な孤立感を抱えることがあります。この孤立感は、心理的なストレスをさらに悪化させ、介護者のメンタルヘルスに深刻な影響を与えることが知られています。

具体例: 例えば、趣味や友人との外出が介護のために制限されると、介護者は「自分の人生が介護だけになってしまった」という感覚に陥ります。このような社会的な孤立感は、介護者の心身の健康に悪影響を与え、最終的には介護の質の低下にも繋がります。

家族関係への影響

 介護は、家族全体に影響を与える問題であり、家族間での介護負担の分担が不均等になると、家庭内でのトラブルが発生することがあります。特に、介護の負担が一人に集中すると、他の家族との関係が悪化するリスクが高まります

具体例: 例えば、兄弟姉妹の間で介護の分担が不均等になると、一方が不満を抱き、家族間の対立が生じることがあります。このような状況が続くと、介護者自身のストレスが増加し、家族関係が壊れる危険性が高まります。

4. 介護負担を軽減するポイント

 介護負担を軽減するためには、専門的なサポートを積極的に活用し、家族や地域と連携することが重要です。ここでは、介護負担を軽減するための4つのポイントを具体的に解説します。

専門的なサポートを受ける

 介護負担を軽減するための最も有効な方法の一つは、ケアマネジャーや訪問介護サービスなどの専門的なサポートを活用することです。専門家によるサポートは、介護者が抱える負担を分散させ、要介護者に適切なケアを提供する手助けとなります。

具体例: ケアマネジャーは、要介護者の状態に合わせて最適なケアプランを作成し、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護サービスをコーディネートしてくれます。また、訪問介護を利用することで、介護者が一部のケアをプロに任せ、自分の時間を確保することができます。

介護サービスを利用する

 デイサービスやショートステイといった介護サービスを利用することで、介護者は一時的に介護から解放され、心身の休息を取ることができます。これにより、介護疲れの蓄積を防ぎ、長期的に介護を続けるためのエネルギーを回復できます。

具体例: 例えば、週に数回デイサービスを利用することで、要介護者が日中施設でケアを受けている間、介護者は自分の時間を確保し、リフレッシュすることができます。また、ショートステイを利用することで、介護者が旅行や休養を取ることができ、心身の疲労を回復することが可能です。

介護の悩みを共有する

 介護者同士のコミュニティや地域の相談窓口を活用して、介護の悩みを共有することは非常に重要です。共通の悩みを持つ他の介護者と交流することで、孤立感が軽減され、精神的な負担が軽くなります。

具体例: 地域の介護者支援グループに参加することで、他の介護者と情報交換を行い、悩みを共有できます。また、地域の包括支援センターや市町村の相談窓口を利用することで、専門家のアドバイスを受けることも可能です。

ケアプランを調整する

 介護が長期間にわたる場合、ケアプランの見直しが必要になることがあります。要介護者の状態は時間とともに変化するため、ケアマネジャーと定期的に相談し、ケアプランを調整することが重要です。

具体例: 例えば、要介護者の状態が急激に悪化した場合、従来のケアプランでは十分な対応ができないことがあります。このような場合、ケアマネジャーと相談して、新しいケアプランを作成し、訪問看護やデイサービスの利用頻度を増やすなどの対応を行うことで、介護者の負担を軽減できます。

5. 介護施設への入所を検討する

 自宅での介護が限界に達した場合、介護施設への入所を検討することも一つの選択肢です。ここでは、介護施設入所のメリットと、施設の選び方について解説します。

 特別養護老人ホーム、老人保健施設については、上記関連記事で詳しく解説しています。

施設入所のメリット

 介護施設に入所することで、要介護者は24時間体制の専門的なケアを受けることができます。これにより、介護者は身体的・心理的な負担を大幅に軽減することが可能です。

具体例: 施設には看護師や介護士が常駐しており、要介護者の健康管理や日常的なケアを行ってくれ、体調の変化や日々の様子は知らせてもらえます。これにより、介護者は自宅での介護の負担を軽減し、自分自身の生活に集中することができます。

施設の選び方

 介護施設を選ぶ際には、医療体制や費用、施設のサービス内容などをしっかりと確認することが重要です。特に、要介護者の状態に合わせた施設を選ぶことが、介護の質を向上させるために必要です。

具体例: 例えば、医療的ケアが必要な要介護者の場合、看護師が常駐している施設を選ぶことが重要です。施設の体制によって受け入れが可能なところとそうでないところがあります。また、費用やサービス内容も施設ごとに異なるため、事前に十分なリサーチを行い、家族全体で相談して決定することが推奨されます。

6. まとめ

 在宅介護は、身体的・心理的・経済的な負担が大きく、長期化すると介護者自身の健康にも影響を与えることがあります。

 しかし、適切なサポートや介護サービスを利用することで、その負担を軽減することができます。介護を一人で抱え込まず、ケアマネジャーや訪問介護、デイサービスなどのプロの支援を積極的に活用し、介護者自身の心身の健康も大切にしましょう。

 特に、家族や地域との連携を大切にし、介護負担を分散させることが、介護を続ける上で重要なポイントとなります。

参考文献
 研究協力者 孫瑜 労働科学研究費補助金分担研究報告書 家族介護者の心理的負担と関連する要因【1】

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