はじめに
介護に関心のある方や、介護施設で働く多くの方々にとって、日常業務の忙しさから政治に対して関心を持つ機会は少ないかもしれません。介護の現場では、利用者のケアが最優先であり、国の政策や政治の動向が日々の業務にどのような影響を及ぼしているかについては意識が向かないことが多いでしょう。
しかし、現実には、介護業界におけるあらゆる制度や方針は政治によって決定されています。介護保険制度、施設の予算、職員の待遇など、介護に関わるすべての要素が政治的な決定の影響を受けています。
特に、今後の日本の高齢化は急速に進んでおり、2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護を必要とする人口が急増することが予測されています。この現実に対応するため、介護業界は持続可能な形で発展していかなければなりません。
この記事では、介護における政治の重要性を理解し、私たち一人ひとりが持つ一票の力で介護業界の未来を変えるために何ができるかを考察します。
介護業界と政治の関係—なぜ政治に関心を持つべきか

政治が介護業界に与える影響
政治は、介護業界に対して直接的な影響を及ぼします。たとえば、介護報酬は、国の予算編成に基づいて決定されるものであり、厚生労働省がその方針を立てる際に、政治的な圧力や意見が強く反映されます。
介護報酬が引き下げられた場合、施設運営における人件費の圧縮やサービスの縮小が余儀なくされ、結果的に利用者や職員に大きな負担をかけることになります。逆に、報酬が引き上げられれば、介護職員の賃金が上がり、人手不足の解消にもつながります。
具体的には、2021年度に行われた介護報酬改定では、平均0.7%の増額が決定しましたが、この増額率は現場の期待よりも低く、依然として介護現場では十分な人員確保が難しい状況が続いています。このように、介護業界における政治的な決定は、直接的に現場の運営や労働環境に影響を与えるため、政治に関心を持つことは避けられない課題です。
社会保障費の配分と介護保険制度
介護保険制度は、日本の高齢者を支える社会保障の一環であり、その予算配分は毎年の国会審議で決まります。
近年、日本の社会保障費は膨張しており、政府はこれをいかに効率的に分配するかが重要な議論の対象となっています。財政的な制約が強まる中、介護保険制度の維持や充実は、政治的な判断によって左右されます。
2022年度の国の社会保障費は約36兆円に上り、そのうち介護保険関連の支出は約12兆円を占めています。介護保険料の負担が増える一方で、給付削減の議論も出ているため、介護を受ける側の負担が増える可能性があります。
こうした状況を踏まえると、介護保険制度の将来について、私たち一人ひとりが政治に関心を持ち、選挙で自らの声を反映させることが重要です。
引用元:石川 駿 厚生労働委員会調査室 令和4年度社会保障関係予算 立法と調査 2022. 2 No. 442
現場の声が反映されないリスク
政治的な決定が現場の実情にそぐわない場合、介護業界は大きなリスクを抱えます。介護職員の労働環境改善が進まなければ、人材不足がさらに深刻化し、サービスの質が低下する恐れがあります。
たとえば、介護報酬の引き下げや施設への補助金削減は、現場でのケアの質を低下させるだけでなく、職員のモチベーション低下にもつながります。したがって、介護現場で働く私たちは、政治に対して自らの意見を反映させる努力を続けることが不可欠です。
全国介護事業者政治連盟とは—私たちの未来を守る政治団体

全国介護事業者政治連盟の役割と目標
全国介護事業者政治連盟は、介護事業者の権益を守り、介護業界全体の発展を目指す政治団体です。
彼らの主な活動は、介護現場の声を国会に届け、現実に即した政策の立案と実行を促すことです。たとえば、介護報酬の引き上げや、介護職員の待遇改善、施設の経営安定化に向けた提言を行っています。
こうした活動がなければ、介護業界の現状を理解していない政策決定者による一方的な決定が行われ、現場の課題が解決されないまま放置される可能性があります。
全国介護事業者政治連盟の目標は、介護の質の向上と、持続可能な介護保険制度の確立です。介護現場に必要なリソースを確保し、質の高い介護サービスを提供し続けるためには、安定した政治的サポートが欠かせません。このため、連盟は介護事業者と政府の橋渡し役を務め、現場の声を政策に反映させる活動を続けています。
持続可能な介護保険制度の確立
介護保険制度は、日本の超高齢社会を支える重要な仕組みですが、その財源は限られており、今後の持続可能性が大きな課題となっています。
特に、少子高齢化が進む中で、現役世代の保険料負担が増え続けることが懸念されています。この問題を解決するためには、制度の見直しと財源確保が不可欠です。
全国介護事業者政治連盟は、この課題に対して、介護保険制度の維持と適切な財源配分を求める提言を行っています。例えば、介護サービスの質を維持するための財源確保策として、介護報酬の引き上げや、施設への補助金増額を求めています。
これにより、介護現場での負担軽減とサービスの向上が実現し、利用者と職員の双方がより良い環境で介護に取り組めるようになります。
介護業界の現状と課題—人手不足と財源確保の問題

介護人材不足の背景と影響
介護業界が直面している最も深刻な課題の一つは、慢性的な人手不足です。厚生労働省のデータによれば、2026年時点で介護職員の必要数は約240万人に上ると言われていますが、実際には約215万人しか確保されておらず、大幅な不足が生じています。この背景には、低賃金や過酷な労働環境が影響しており、介護職員が長期間働き続けることが難しい現状があります。
引用元:厚生労働省 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について 別紙1
この人手不足は、介護サービスの質にも直接的な影響を与えます。例えば、一人当たりの職員が担当する利用者の数が増えれば、十分なケアを提供する時間が取れず、結果的に利用者の満足度が低下するだけでなく、職員自身のストレスや過労にもつながります。これが長期的に続けば、さらなる離職が進み、悪循環に陥るリスクが高まります。

介護財源の確保と政策的な支援
財源確保もまた大きな課題です。介護施設を運営するには、多額のコストがかかりますが、そのほとんどは介護報酬によって賄われています。
しかし、現行の報酬制度では、施設運営費や職員の賃金が十分にカバーされておらず、特に中小規模の施設では経営が厳しい状況が続いています。
政府は、介護報酬の見直しを進めてはいますが、その効果が現場に十分に行き渡っているとは言えません。たとえば、2024年度の介護報酬改定では、1.59%の引き上げが行われましたが、これでは職員の処遇改善や施設運営の安定には不十分です。
今後も持続可能な介護制度を維持するためには、財源の確保と適切な配分が急務です。国は、介護報酬の引き上げや施設への補助金増額など、具体的な支援策を強化する必要があります。
引用元:福田明(松本短期大学介護福祉学科教授) 2024(令和6)年度介護報酬改定|処遇改善・職場環境の改善など徹底解説!
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介護と政治活動—現場の声を政治に届けるためにできること

議員の役割と必要性
介護現場の声を政治に届けるためには、介護に詳しい国会議員の存在が不可欠です。
現在、日本の国会には介護福祉士や介護事業者出身の議員がいないため、介護業界の実態を深く理解したうえで政策を提言できる議員が少ないのが現状です。介護現場の問題点を知る議員がいなければ、政治的な議論が現場の実態にそぐわないものになってしまうリスクがあります。
そのため、介護業界に理解のある議員を増やすことが重要です。全国介護事業者政治連盟では、介護現場を支援する議員の選挙支援を行っており、介護業界の声を国政に反映させるための活動を続けています。
現場の課題を解決するためには、こうした活動に参加し、介護に理解のある政治家を選挙で選び出すことが重要です。
選挙で一票を投じることの意味
選挙での一票は、政治に直接影響を与える手段の一つです。特に、介護業界に関する政策は、政治家の考え方や所属する政党の方針によって大きく異なります。
たとえば、自民党は介護保険制度の持続可能性を重視しており、長期的な改革を進めていますが、一方で共産党や社民党は、介護現場の労働環境改善やサービスの充実に力を入れています。
介護業界に対する政策がどのように変わるかは、私たち一人ひとりの投票行動によって決まります。選挙を通じて、自分たちの声を届ける議員を選び出すことで、介護業界の未来に直接影響を与えることができます。
そのため、政治に対して無関心でいることは、介護業界の未来を他人任せにすることと同じです。

選挙、政治に関心がない職員が多いと感じます。「介護の現場は政治で決まる」ということを発信し、少しでも関心を持ってもらえるよう働きかけています。
介護福祉施設と政治の未来—これから私たちが目指す方向性


介護福祉施設の安定経営のための政策
介護福祉施設の安定経営には、経済的な支援と法的な枠組みの整備が不可欠です。介護施設の運営は、入居者からの利用料や介護報酬によって賄われていますが、施設の経営を持続させるには予算が不足しがちです。
特に人件費の増加や、施設のメンテナンス費用、医療機器の導入などのコストが年々増大しています。これに対処するためには、政府による経済的な支援が必要です。
たとえば、2021年の介護報酬改定では、施設運営を支えるための特定施設報酬や特養への補助金が引き上げられましたが、これでも全体のニーズに対しては十分ではありません。
特に中小規模の施設は、大規模施設に比べて財政的に脆弱であり、運営の継続が困難な状況に直面していることが多いです。こうした現実に対応するため、国はさらに幅広い経済的な支援策を導入し、施設の安定経営を支える必要があります。
経営者と職員が連携して目指す未来
介護福祉施設の安定経営は、経営者だけでなく職員との連携によって成り立ちます。職員は、利用者への直接的なケアを提供する現場の最前線に立っており、彼らの意見や提案が施設の運営にとって非常に重要です。
たとえば、業務効率の向上や、職員の負担軽減に向けた新たな取り組みは、現場からの声が反映されなければ実現できません。経営者と職員が共に施設の運営に責任を持ち、連携して取り組むことが、安定した施設運営のカギとなります。
さらに、職員の待遇改善も重要な課題です。介護職員の賃金は他の職種に比べて低い水準にあるため、人材の確保が困難になっています。経営者は、政治的な支援を受けつつ、職員の処遇改善に向けた取り組みを進めるべきです。
例えば、国の補助金を活用して賃金を引き上げたり、福利厚生を充実させることで、優秀な人材を長期間にわたって確保することが可能になります。



赤字の事業所や人手不足でクローズする法人が少なからずある中で、体力のある法人が生き残っていく時代です。介護報酬の大幅な引き上げがない限り人件費に振る予算はない状況です。
政治に期待する今後の方向
今後、介護業界が直面する課題に対して、政治はどのように対応していくべきでしょうか。まず、介護報酬のさらなる引き上げと財源確保が重要です。
介護報酬が現状の水準に留まる限り、職員の待遇改善や施設の運営安定は難しいため、国は積極的な報酬改定を進めるべきです。また、社会保障全体の見直しが必要です。少子高齢化が進む中で、現役世代の負担が増加する一方、給付の削減が議論されています。
こうしたバランスを取るために、政府は財源確保の新たな方法を模索し、持続可能な制度改革を推進する必要があります。
さらに、介護業界の国際化や産業化も注目されています。介護の質を向上させ、持続可能なシステムを構築するためには、国際的な技術やノウハウを取り入れることが重要です。
たとえば、海外の先進国ではロボット技術やAIを活用した介護システムが進んでおり、これらを日本の介護現場に導入することで、業務効率が飛躍的に向上する可能性があります。政府はこうした技術革新を支援し、産業化の進展を促進するための政策を進めるべきです。
結論: 介護業界を変えるのは私たち一人ひとりの行動—政治に関心を持とう
介護業界の未来を切り開くためには、私たち一人ひとりが政治に関心を持ち、積極的に行動することが求められています。
介護現場の課題を解決し、質の高いサービスを提供するためには、政治的な支援が欠かせません。現場の声を国政に届けるためには、介護業界に理解のある政治家を選挙で選び出し、政策に反映させることが必要です。
介護と政治の関係を理解し、自らの一票が介護業界の未来を左右する力を持っていることを認識することが、より良い介護の未来への第一歩です。
さらに、私たち一人ひとりの行動が積み重なり、大きな変化を生み出す可能性があります。例えば、地域の集会や政治家との意見交換会に参加し、自らの考えを積極的に発信することも有効です。
また、介護業界に関するニュースや政策を常にチェックし、どのような変化が業界に影響を与えるのかを理解しておくことも重要です。こうした小さな行動の積み重ねが、介護業界全体の改善につながります。
さらに、政治家との対話を通じて、現場の課題やニーズを直接伝えることも有効です。介護現場で働く人々が抱える具体的な課題を政治家に理解してもらうことで、より現実的な政策が生まれる可能性が高まります。例えば、介護職員の労働環境改善や待遇向上に向けた提言を行うことは、介護の質を高めるために重要です。
また、介護現場の声を代弁する団体や組織に協力することも一つの手段です。これらの団体は、業界全体の利益を守るために活動しており、彼らの活動をサポートすることで、より大きな影響力を持つことができます。私たち一人ひとりの協力が、介護業界の未来を支える大きな力となります。
このように、政治に関心を持ち、積極的に行動することは、介護業界を取り巻く様々な課題を解決するための鍵となります。私たちの一票や行動が、介護職員や利用者にとってより良い環境を作り出し、ひいては社会全体の福祉の向上につながるのです。
介護と政治の密接な関係を理解し、自らの行動で未来を変えていく意識を持つことが、より持続可能で質の高い介護サービスを実現するための第一歩です。
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