介護の現場で働く皆さまにとって、「事故」はもっとも避けたい、しかし常に隣り合わせにある大きな課題です。令和7年11月、厚生労働省は「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」をアップデートしました。高齢化が進み、介護度の高い方や認知症の方が増えるなかで、これまでのやり方だけでは不十分な場面も増えています。
この記事では、新しくなったガイドラインのポイントを分かりやすく解説します。事故を防ぐための新しい考え方から、万が一のときの正しい対応、さらには法律的な責任まで、専門的な内容を誰にでも伝わる言葉でまとめました。この記事を読むことで、現場での不安が安心に変わり、利用者さまにより質の高いケアを提供できるヒントが見つかるはずです。
はじめに:なぜ今、リスクマネジメントの「アップデート」が必要なのか

背景:変わりゆく介護現場の現状
今の介護現場では、事故を防ぐための考え方を新しく見直すことが強く求められています。
日本全体で高齢化が進み、重い介護が必要な方や認知症を患う方が増えたことで、以前よりも事故が起きやすい環境になっているからです。
例えば、これまでは歩行中の転倒が主な心配事でしたが、現在は体の機能が著しく低下した方が増えたため、寝返りなどの日常的な動作の中で起きる内出血やケガといった、予期せぬトラブルへの対策も重要になっています。
だからこそ、今の利用者さまの状態に合わせた、新しい備えが必要なのです。
ガイドライン改訂の目的:最新技術の活用と格差の解消
今回のガイドライン改訂には、最新のテクノロジーを上手に取り入れ、どの施設でも同じように安全を守れるようにするという狙いがあります。
見守りセンサーなどの新しい道具が進歩している一方で、それらを活用できている施設とそうでない施設の間に、安全対策の差が生まれているという課題があるからです。
具体的には、見守り機器を使って職員の目が届かない時間帯の異変を早く見つけたり、インカムを使って職員同士がすぐに助け合える仕組みを整えたりすることが推奨されています。
現場の道具やルールを今の時代に合わせて更新することで、より確かな安心を届けることができます。
この記事で得られること:2025年版の重要ポイントと具体策
この記事を最後まで読むことで、新しくなったルールの重要ポイントと、今日から現場で役立つ事故防止の具体的な手法がわかります。
2025年版のガイドラインには、実際に起きた事故の事例や、二度と同じ過ちを繰り返さないための詳しい分析方法が盛り込まれているからです。
例えば、転倒や食べ物の飲み込みトラブル(誤嚥)といった、よくある事故に対して「どう動けばよかったのか」という具体的な正解を知ることができます。
実務に直結する知識を身につけることで、利用者さまにとっても職員にとっても、より安全な環境をつくるヒントが見つかるはずです。
介護現場におけるリスクマネジメントの基本理念

尊厳の保持と自立支援:自分らしい生活を支えるためのリスク管理
リスクマネジメントの本当の目的は、単に事故をゼロにすることではなく、利用者さまが「その人らしい生活」を送れるよう支えることにあります。
介護の本来の役割は、利用者さまのプライドを守り、自分でできることを助ける「自立支援」にあるからです。
例えば、転倒を怖がって「歩くのを禁止する」のは簡単ですが、それでは利用者さまの足腰は弱り、自分らしく動く自由が奪われてしまいます。安全に配慮しながらも、どうすればやりたいことを叶えられるかを考える工夫こそが、本当のリスク管理です。
安全と自分らしさを両立させることが、質の高い介護の第一歩となります。
組織文化の醸成:一人で頑張らず、全員で取り組む
事故防止は、職員個人の注意や努力だけに頼るのではなく、施設全体で取り組む「組織の文化」にすることが非常に大切です。
どれほど気をつけていても、人間一人の力では防げないミスや限界が必ずあるからです。
具体的には、施設のトップが安全に対する明確な方針を示し、現場の職員が「これは危ないかもしれない」と感じたことを、誰でもすぐに相談できる雰囲気をつくります。
職員全員が一丸となって情報や気づきを出し合うことで、ミスが起きにくい、風通しの良い強い組織がつくられます。
生活の場としての認識:リスクゼロではなく、リスクと向き合う
介護施設はあくまで「生活の場」であり、事故のリスクを完全にゼロにすることは不可能である、という前提をみんなで共有することが大切です。
もし全ての事故を完璧に防ごうとすれば、利用者さまをベッドに縛り付けるような、自由のない窮屈な生活を強いることになってしまうからです。
施設で暮らしていても、お家で暮らすのと同じように避けられないリスクがあることを、ご本人やご家族に事前にしっかりと説明し、理解し合っておく必要があります。
事故が起きうることを認めた上で、どうすればその影響を最小限に抑えられるかを一緒に考える誠実な姿勢が、信頼関係の基盤となります。
※介護のリスクマネジメントについて詳しく知りたい方はこちら>>>https://asu-asu.blog/kaigo-riskmanegement-kaisetu/
事故の仕分け:対策が取れるものと難しいもの

職員のミスと体の変化による事故を区別する
介護の現場で起きる事故は、「職員の不注意によるもの」と「利用者さまの体の変化でどうしても起きてしまうもの」に分けて考えることが大切です。
すべての事故を職員の責任にしてしまうと、本来防ぐことが難しい事故まで無理に防ごうとして、利用者さまの自由を奪ってしまう恐れがあるからです。
例えば、決められた手順を守っていれば防げた「お薬の渡し間違い」は職員が対策すべき事故ですが、筋力の低下で歩行中にふらついて転んでしまうのは、自宅でも施設でも起こりうる「防ぐのが難しい事故」と言えます。
事故の性質を正しく見極めることで、どこに力を入れて対策すべきかがはっきりし、より確実な安全対策につながります。
防ぐのが難しい事故には事前の説明で備える
どうしても防ぐことが難しい事故については、あらかじめご本人やご家族へ丁寧に説明し、理解を得ておくことが欠かせません。
介護施設は「生活の場」であり、完璧に安全な場所を作ることは難しいため、生活の中で起こりうるリスクを共有しておく必要があるからです。
具体的には、個別にリスクを評価(アセスメント)し、「この方にはこのような転倒の可能性があります」と事前に話し合い、納得してもらった上でケアを進めます。
リスクを隠さず伝え、一緒に考えるパートナーとしての関係を築くことが、万が一の際にも信頼を守る大きな力になります。
「すべての転倒が施設の過失ではない」という考え方
転倒事故が起きたからといって、それが必ずしも施設の落ち度(過失)になるわけではない、という科学的な考え方を知っておくことが重要です。
日本老年医学会などの専門家も、適切な対策をしていても、利用者さまの活動性が高まれば一定の確率で転倒は起こるという宣言(ステートメント)を出しています。
例えば、歩きたいという意欲を尊重してリハビリを続けている中で起きた転倒は、生活の質を守るための過程として、必ずしも過失とはみなされません。
このような考え方を共有することで、職員も過度に恐れることなく、利用者さまがその人らしく過ごせるような支援に専念できるようになります。
事故予防のための体制整備:組織の基盤づくり

管理者が方針を示し、現場の声を拾い上げる
事故防止の仕組みは、管理者が方針を示す「トップダウン」と、現場から改善案を出す「ボトムアップ」の両方を組み合わせて作ることが大切です。
トップが安全に対する明確な理念を示さないと組織はバラバラになりますが、実際に現場の職員にしか分からない細かな危険もたくさんあるからです。
まず施設長が「安全を最優先にする」というビジョンを掲げ、その上で現場の職員が気づいた「廊下のこの角が暗くて危ない」といった提案を改善に活かす仕組みを整えます。
この2つの流れが噛み合うことで、職員が安心して働ける、安全に強い組織ができあがります。
誰が担当しても安心なケアを実現する手順書の整備
どの職員が担当しても同じように安全な介助ができるよう、正しい手順をまとめた「業務手順書(マニュアル)」を整えることが重要です。
職員一人ひとりの経験や勘だけに頼ってしまうと、人によってやり方が変わり、思わぬミスや事故を招く危険があるからです。
例えば、車いすへの移り方や食事の介助方法を分かりやすく文書にしておくことで、新人職員でもベテランと同じように安全を確認しながらケアができます。
マニュアルを全員の共通ルールとして活用することで、施設全体のケアの質が安定し、安全が守られるようになります。
多職種で話し合う「委員会」を動かす
介護職だけでなく、看護師やリハビリ職など、いろいろな専門家が参加する「委員会」で対策を話し合うことが効果的です。
職種によって見ている視点が異なるため、多職種で連携することで、一人の目では気づかなかった事故の要因を見つけやすくなるからです。
具体的には、定期的に集まって「ヒヤリとした出来事」を分析したり、事故が起きた際は臨時で開催して、リハビリ職や看護師の意見を取り入れた再発防止策を練ったりします。
チームの力を結集して話し合う場を持つことが、利用者さま一人ひとりの状態に合った、より確かな安全対策につながります。

介護保険の事業所では、概ね年2回は事故防止委員会を開催することが義務付けられています。しっかり記録に残しておきましょう。
形骸化させない研修で対応力を高める
事故防止の研修は、ただ話を聞くだけでなく、現場で役立つ具体的な内容にすることが大切です。
知識として知っているだけでは、いざという時に自分や利用者さまを守る動きができないため、研修が「形だけ」にならない工夫が必要だからです。
例えば、実際に起きた事例を題材に話し合うワークショップを行ったり、地元の消防署と協力して窒息事故の際の対応を練習したりします。
職員が「自分たちのこと」として主体的に学べる工夫をすることで、日々のケアにおける安全への意識が自然と高まっていくはずです。
事故を未然に防ぐ「予測力」と「分析力」の強化


利用開始直後は多職種で重点的にチェックする
サービスを使い始めてすぐの時期は、事故が起きる危険が最も高いため、チーム全員で注意深く見守る必要があります。
職員がまだ利用者さまの動くクセを把握できていないことに加え、利用者さま自身も慣れない環境で体調を崩したり、普段とは違う動きをしたりすることがあるからです。
具体的には、事前にご家族から「家ではどのように過ごしていたか」を詳しく聞き取り、最初の1週間程度は複数の職員で食事や移動の様子をメモして共有します。
このように、使い始めの時期に看護師や介護士など様々な専門家が協力してリスクを見つけ出すことが、その後の大きな事故を防ぐ一番の鍵となります。



入居時カンファレンス等で、入居後しばらくは環境の変化から事故のリスクが高まることをご家族と共有しておくことが重要です。
「ヒヤリハット」を宝の山として活用する
事故には至らなかったものの「ヒヤリ」としたり「ハット」したりした出来事を、施設全体で積極的に集めて共有することが大切です。
「ハインリッヒの法則」という考え方があり、1件の重大な事故の裏には、実は300件もの小さな「ヒヤリ」とする出来事が隠れていると言われているからです。
例えば、ベッドから落ちそうになったという小さな気づきを全員で話し合えば、柵の位置を変えるなどの対策ができ、実際のケガを未然に防ぐことができます。
小さなミスを責めるのではなく、みんなで情報を共有して改善につなげる仕組みを作ることが、利用者さまの安全を底上げすることにつながります。
介護テクノロジーを賢く使いこなす
見守りセンサーやインカムなどの新しい道具を上手に取り入れることで、人間の目が届かない場所や時間の安全を守ることができます。
職員が少なくなる夜間などに機械の助けを借りることで、異変をいち早く察知し、事故が大きくなる前に駆けつけることができるからです。
具体的には、ベッドから起き上がった時に通知が来るセンサーを使って転倒を防いだり、インカムを使って離れた場所にいる仲間にすぐに応援を頼んだりします。
ただし、機械はあくまで補助的な道具であることを忘れず、最後は人間の経験や知見と組み合わせることで、より確かな安心を届けることができます。
※介護ロボット、ICTについて詳しく知りたい方はこちら>>>https://asu-asu.blog/ict-caretech/
事故発生時の黄金フロー:初動から報告まで


初動対応は「命を守ること」をルール化する
事故が起きてしまったときは、何よりもまず「救命」と「安全確保」を最優先に行動しなければなりません。
対応が遅れてしまうと、本来なら防げたはずの重篤な状態になってしまう恐れがあるからです。
具体的には、すぐに看護職員と連携して呼吸や脈拍などの状態を正確に確認し、頭を打っている場合などは迷わず病院を受診するというルールをあらかじめ決めておきます。
このように初動の動きをしっかり定めておくことで、いざという時も落ち着いて最善の処置を行うことができます。
ご家族や行政への迅速で誠実な報告
事故の状況は、できるだけ早く、隠し事をせずにご家族や行政に報告することが信頼関係を守るために不可欠です。
報告が遅れたり、情報を隠そうとしたりすると、ご家族に強い不信感を与え、取り返しのつかないトラブルに発展してしまうからです。
例えば、まだ原因がはっきり分かっていない段階でも、「今どのような状況か」をありのままに伝え、死亡事故や重い治療が必要な場合は速やかに市区町村へ報告します。
誠実な対応を積み重ねることで、万が一のときもご家族と一緒に解決策を考えていけるパートナーとしての関係が築けます。
再発防止策を常に最新の状態に更新する
一度決めた事故対策はそのままにせず、現場の状況に合わせて常にアップデートしていく必要があります。
以前はうまくいっていた対策も、利用者さまの状態や環境が変われば効果がなくなってしまうことがあるからです。
具体的には、じっくり計画を立てて改善する手法(PDCA)だけでなく、不測の事態に素早く対応する手法(OODA)を使い分け、対策を常に新しく保ちます。
事故から学んだことを素早く仕組みに反映し続けることで、施設はより安全で信頼される場所へと成長していきます。
【実践事例別】原因分析と具体的な再発防止策


転倒・転落:薬の変化やベッドの高さに注目する
転倒や転落を防ぐには、利用者さまが飲んでいるお薬の変化や、寝ている環境を整えることが非常に有効です。
お薬が変わると、副作用でふらついたり、一時的に意識がぼんやりして(せん妄)予期せぬ動きをしてしまったりすることがあるからです。
例えば、血圧を下げるお薬を変えた後などは、副作用が起きないか数日間は特に注意して見守る回数を増やすルールを作ります。また、万が一ベッドから落ちてもケガが小さく済むように、高さを一番低くできる「低床ベッド」を導入し、寝る時は低くしておくことも大切です。
このように、利用者さまの体調の変化と環境の両方に目を配ることで、大きな事故を未然に防ぐことができます。
誤嚥・窒息:専門家チームでお口の力を確認する
食べ物を喉に詰まらせたり誤って肺に入れたりする事故を防ぐには、いろいろな専門家でお口の飲み込む力を確認することが重要です。
お口の力は人によって全く異なり、加齢によって自分でも気づかないうちに飲み込む力が弱まっている場合が多いからです。
例えば、歯医者さんや栄養士さんと協力して「パタカラ体操」などのお口の運動を取り入れたり、その方に合った食事の形を選んだりします。最近では、バラバラになりやすく喉に残りやすい「きざみ食」をあえてやめて、まとまりのある「ソフト食」に変えることで安全を高めている施設もあります。
チーム全体で食事の様子を見守り、工夫を重ねることが、安全でおいしい食事の時間につながります。
異食:命に関わる危ない物を徹底的に管理する
食べられない物を口にしてしまう事故では、特に命に関わる危険な物が利用者さまの手に触れないよう厳重に管理することが欠かせません。
認知症の症状によって何でも口に入れてしまう場合、すべてを止めることは難しいため、まずは「命に別条があるかどうか」で対策を絞ることが現実的だからです。
具体的には、塩素系の漂白剤やボタン電池、タバコといった、飲み込むとすぐに命の危険がある物は、鍵のかかる高い場所に保管します。また、洗剤などは簡単に開けられない「セーフティキャップ」付きのボトルに詰め替えて、絶対に口に入らない工夫をします。
このように、本当に危ない物を物理的に遠ざける仕組みを作ることが、利用者さまの命を守る確実な方法となります。
誤薬・与薬漏れ:何人もの目でチェックする仕組みを作る
お薬の渡し間違いや飲み忘れを防ぐには、一人の注意に頼らず、複数の職員で順番に確認する「多段階チェック」を徹底することが基本です。
お薬の事故は思い込みなどの「ついうっかり」で起きやすく、忙しい時間帯ほどミスが発生しやすいからです。
例えば、薬を準備する担当と実際に渡す担当を分け、名前を声に出して読み上げながら確認するルールをマニュアル化します。また、薬局と協力してお薬の袋を色分けしてもらったり、名前を大きく印字してもらったりすることで、誰が見ても間違えない工夫を取り入れます。
システムを整えて「人間がミスをしにくい環境」を作ることが、利用者さまの健康を確実に守る力になります。
※誤薬、服薬拒否対応について詳しく知りたい方はこちら>>>https://asu-asu.blog/fukuyakukaijo-kanzengaide/
内出血・皮膚剥離:弱い皮膚への配慮と機械の活用
高齢者のデリケートな皮膚をケガから守るには、皮膚の状態を正しく知り、無理な力をかけない介助方法を選ぶことが大切です。
高齢者さまの皮膚は、若いうちよりも水分が少なく紙のように薄いため、少しこすれたり強くつかんだりしただけで、すぐに内出血や皮がむけるケガをしてしまうからです。
例えば、車いすへ移る際に職員が力任せに抱えるのではなく、専用の「リフト」などの機械を使うことで、利用者さまの体に無理な力がかからないようにします。リフトを使えば力が均等にかかるため、皮膚への負担が減るだけでなく、職員の腰痛予防にもなります。
道具を上手に使い、優しいケアを心がけることが、利用者さまの肌トラブルを防ぐ近道です。
※ノーリフティングケアについて詳しく知りたい方はこちら>>>https://asu-asu.blog/noliftingcare/
専門的な分析手法:なぜなぜ分析とSHELL分析


「なぜなぜ分析」:本当の原因を深掘りする
事故が起きたときに「なぜそうなったのか?」という問いを何度も繰り返すことで、表面的なミスではない「本当の原因」を見つけ出すことができます。
「不注意だった」という個人の反省だけで終わらせてしまうと、同じような状況になったときにまた別の人が同じミスをしてしまうからです。
例えば、「廊下で転んだ」→なぜ?「水がこぼれていた」→なぜ?「加湿器の掃除が不十分だった」というように、原因を一つずつ掘り下げていきます。
こうして仕組みの弱点を見つけることで、誰が担当しても事故が起きない「安全な仕組み」に作り変えることができるようになります。
「SHELL分析」:5つの視点でバランスよく整理する
事故の原因を考えるとき、5つの視点(S・H・E・L・L)に分けて整理すると、当事者のせいにするのではなく、広い視野で対策を立てられます。
事故は決して一人のせいではなく、マニュアルの不備や設備の使いにくさなど、周りのいろいろな要素が重なり合って起きるものだからです。
具体的には、Software(ルールや手順)、Hardware(ベッドや車いすなどの設備)、Environment(部屋の明るさや静かさ)、Liveware(利用者さま本人や職員、周りの人)という頭文字の視点で分析します。
このように全体をバランスよく見渡すことで、次はどこを直せば安全になるかが、誰の目にもはっきりと分かるようになります
事業者が負う法的責任と安全配慮義務


「安全配慮義務」とは利用者の安全を守る約束のこと
介護事業者は、利用者さまが安全に過ごせるように配慮する「安全配慮義務」という重い責任を負っています。
これは、単に「事故を起こさない」ということだけでなく、事故が起きるかもしれないとあらかじめ予想し、それを避けるための努力を尽くす義務のことです。
例えば、足元がふらついている利用者さまが「一人で歩けば転ぶかもしれない」と予測(結果予見義務)し、手すりを設置したり見守りを行ったりして転倒を避ける(結果回避義務)ための対策を講じる必要があります。
このように、日頃からリスクを評価し、適切な対策を立てておくことが、法律上の責任を果たすための第一歩となります。
事前と事後の「説明責任」を果たすことが信頼のカギ
利用者さまやご家族に対して、サービス開始前の「リスクの説明」と、事故が起きた時の「事実の報告」を誠実に行うことは、事業者の大切な義務です。
納得できる説明があることで、ご家族との間に強い信頼関係が築かれ、万が一のトラブルも防ぎやすくなるからです。
具体的には、契約時に「介護施設は生活の場であり、どれだけ注意しても防ぐのが難しい事故がある」と丁寧に伝え、実際に事故が起きた際も隠さず迅速に事実を伝えます。
ご家族が理解しやすい言葉で情報を共有し、一緒に安全を考えていく姿勢を持つことが、説明責任を果たす上で最も重要です。
保険への加入と丁寧な説明で「もしも」に備える
万が一の賠償に備えて損害賠償保険に加入しておくことは、利用者さまと職員の両方を守るために不可欠です。
保険があれば、大きな事故が起きた際も利用者さまへの補償をスムーズに行うことができ、職員も「守られている」という安心感を持って働けるようになるからです。
実際に、ほとんどの施設がこうした保険に加入していますが、大切なのは「保険があるから安心」と過信せず、事故の際は「どのような対策を取っていたか」をご家族に尽くして説明することです。
保険による金銭的な備えと、誠実な説明による心の通い合いの両方を揃えておくことで、事業所の安定した運営が守られます。
まとめ:安全なケアが職員の安心にもつながる
事故防止の仕組みは「職員が安心して働ける環境」をつくる
事故を防ぐための体制を整えることは、利用者さまの安全だけでなく、職員が笑顔で働き続けられる職場づくりに直結します。
「自分のミスで誰かを傷つけたらどうしよう」という不安が強い現場では、職員はのびのびとケアができず、離職にもつながりかねないからです。
組織全体で事故防止に取り組み、万が一の際のルールや保険をしっかり整えておくことで、職員はチームの一員として安心して自分の役割に集中できるようになります。
利用者さまの安全を追求することは、結果として職員の心を守り、より良い介護を長く提供し続けられる環境を作ることになります。
ガイドラインを「ケアの質を高める道具」として使いこなそう
厚労省のガイドラインは、単に守らなければならない「厳しいルール」ではなく、利用者さまの自分らしい生活を支えるための「心強い道具」として活用しましょう。
リスクマネジメントの本当の目的は、事故をゼロにすることそのものではなく、利用者さまがその人らしく尊厳を持って暮らせるようサポートすることにあるからです。
例えば、ガイドラインを参考にしながら、「どうすれば安全に歩けるか」を多職種で話し合うこと自体が、施設全体のケアの質を高める貴重な活動になります。
この最新の指針を日々の仕事に取り入れ、アップデートし続けることで、利用者さまも職員も安心できる、より良い介護の現場をつくり上げていきましょう。
参考資料:厚生労働省 介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン

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